CREATOR
平#重行
京都産業大学准教授
2013
11.06
近未来の住宅「インテリジェントハウス」を研究する京都産業大学准教授
「KAKEHASHI」第28回のインタビューは、京都産業大学コンピュータ理工学部准教授、平井重行先生。
平井先生は、IT技術と家が融合したインテリジェントハウスの研究をされています。なんだかすごく未来っぽいイメージを受けながら、研究室にお邪魔したところ……なんと、室内なのに突然家が現れました!!
第一印象は、見慣れたごく一般的な玄関口。でもこの家こそが、実際に人が済んで実験できるインテリジェントハウス「ΞHome(くすぃーほーむ)」なのです!さて、その実態とは……。
「ΞHome(くすぃーほーむ)」の用途のひとつとして、生活の行動を記録する、つまりライフログを研究するということがあります。後で紹介するいろいろなシステムを使って普段の生活の様子を捉えることはできますが、実はこの家の天井そのものにも仕掛けがあるんです。うっすら模様になっているでしょう? 人の目で見たら単なる模様にしか見えませんが、携帯やスマートフォン、普通のカメラなどでフラッシュをたいて撮影すると、マーカーが白く光って写っているのがわかると思います。これは再帰性反射材で模様が作られていて、フラッシュに含まれる赤外線を反射します。デジタルカメラなどの撮像素子(CCDやCMOS)は人の目に見えない赤外線も捉えることができるので、このように写るのです。この天井のマーカーは1つ1つドットパターンが違っていて、画像処理によって撮影したカメラの位置や向きを検出することに使えます。最近はカメラのついたメガネ型ディスプレイなんかがありますが、ああいったもので撮影すると、その人が家の中で今どこにいてどっちを向いているかが分かる仕組みというわけです(この仕組みや処理は奈良先端科学技術大学院大学の研究成果を使わせてもらっています)。
カメラデバイスが使えないお風呂では、いろいろなセンサーを利用して、入浴行動や状態を見ることができます。例えば、湯量を測る目的で付いている給湯暖房機の水圧センサーで水圧を測り続ければ、お湯につかっている人の動きが情報として得られます。湯をかき混ぜているかどうかや、水面の上下で呼吸の状態もわかります。大層に聞こえますが、実はこういうことにまで使えるセンサーが一般家庭で既に普及しているんですよ。ここの浴室では、これらの入浴によって得られる情報を音に変換して表現する試みを行っています。
安否確認や健康状態をチェックをするにしても、単純に数字だけで表わされても面白くないじゃないですか。それで、サウンドとして表現して見たらどうかと考えてシステムを作りました。お湯をかき回すとピアノのフレーズが流れて、お湯につかっている状態だとシンセサイザーのサウンドがボーン、ボーンとたまに鳴るような、音や音楽で状況を表現することを試しています。お風呂に入っている本人が楽しんでもいいですし、例えばキッチンやリビングにいる家族がメロディを聴くことで、お風呂に入っているおじいちゃんの状態を知るということもできます。
また、水圧センサーとは別に心拍数を測ることができるお風呂もあります。浴槽自体に電極がついていて湯水を介して心電を測る仕組みなんですね。リアルタイムで心拍の情報が得られるので、それをそのままBGMのテンポ制御に使えば、心拍数に同期していく音楽も作れるんです。リモコンに「あなたの心拍数は85」と数字だけで表示されるよりも、自分の好きな音楽のテンポが自分の体調に合わせて変化していく。普段聴いている音楽のテンポ変化が、自分の体の状態を知ることにつながるシステムも考えて作りました。
さらに、この浴槽にはタッチセンサーが埋め込んであって、コントローラーとして自発的に演奏することにも使えるんです。触ってみてください。
水圧センサーの波形や心電図のデータを裏で処理しているのですが、使う人にしてみると、お風呂に入るという行為自体は何も変わらない。いつも通りお湯につかるだけで使えるシステムというところが特長です。新たに使い方を覚える必要はありません。
その上で、もっとインタラクションの仕組みを作れないかなと思って、音楽が聞けたり演奏できたりするようにしたんです。
実際問題として、お風呂場で亡くなる人は年間1万人以上いて、交通事故で亡くなる人の数よりもかなり多いと言われているのを考えると、事故として大きな社会問題ですよね。でも、人の生死に関わることをコンピューターシステムだけで対処するのは非常に怖い。責任や法律としてどうするのかという話になっていきます。研究を実用化しようとする時に、立ちはだかる問題ですね。そんなシリアスな部分もありますが、技術ばかりに偏るのではなくエンタテインメント的な要素を入れながら、いかにして安心・安全や健康管理の仕組みをより人に馴染むかたちで住宅に組み込んでいくかということが、この研究の目指すところのひとつなんです。
近いうちにセンサーを入れて鏡面をマルチタッチにしますし、そもそもディスプレイとしても機能するので、単なる情報提示だけでなく、例えば歯みがきの嫌いな子供のための楽しく歯みがきできるアプリを動かしたり、とにかく生活の場で使えるもの、面白い利用方法をいろいろと試そうと思っています。
玄関にはプロジェクター投射で家を出る前に天気がわかる仕組みを入れていますけれど、天気の表示方法も工夫しています。我々が普段使うスマートフォンやパソコン、テレビなどのディスプレイは画面の上下がはっきりしているので、雨なら傘マークといった向きのあるアイコンで示しても問題ないのですが、床や天井を使っての表現となると、人はどっち向きに見るかという天地問題が出てきます。それならいっそ、向きなど関係なくして雨を降らせてしまえばいいのではないかと、壁には雨粒の軌跡を、床にはぽちゃぽちゃと波紋が広がるアニメーションで表現しました。従来の天気予報を見ているのとは明らかに違う体験ができる、今までにない手法だと思います。
インテリジェントハウスは、現実の日本家屋の拡張だと考えています。例えば5年、10年後には手が届くもの、あるいは届きそうと思えるものというビジョンを見せたい。そういう意味では、SF作品にイメージを受けることもあります(笑)実際のビジネスやものづくりと結び付く現実味が必要だと思っています。住宅の建て替えやリフォームのサイクルを考えると、既存の浴槽に後付けでセンサーを付けたりだとか、カスタマイズしていけるようなものがいいですね。センサーやディスプレイなどのデバイスはどんどん新しいものがでてくるので、我々はそこでいかにインタラクションとして面白いことができるか、生活の質や内容が変わるようなことができるかということを考えています。テクノロジーが進歩するほど無機質になるのではなくて、逆にちょっとアナログになっていくような、それで家自体が楽しめる場所となるようなアイデアとシステムを生み出し続けていきたいですね。
先生自身がとっても楽しそうに説明してくださって、取材するほどに「ΞHome(くすぃーほーむ)」で暮らしてみたいと思いました。最新のテクノロジーが満載なのに、どこか温かみのあるお家。近い将来、私たちにとって現実のものとなるかもしれません。
取材@京都産業大学14号館
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