CREATOR
下條真司
工学博士
2010
12.17
アートとテクノロジーを繋ぐ、現代のダ・ヴィンチ
「KAKEHASHI」第23回のインタビューは、情報通信研究機構大手町ネットワーク研究統括センター上席研究員の下條真司さんです。
下條さんは現在、サイバーメディアセンター教授であり、大阪大学情報科学研究科で教鞭をふるっておられます。
また日本を代表するインターネットのキーパーソンで、メディアアートでも第一線で活躍されています!
さらに、現在JR大阪駅周辺で開発中の“北ヤード”に関しても、お話をお伺いする事が出来ました。
情報通信研究機構(NICT:National Institute of Information and Communications Technology)のネットワーク統括研究センターで、日本全国の実験用ネットワーク網を運営管理してます。今のインターネットは一般にも商用でよく使われていて、研究者が実験でネットワークを止めたり出来ないんですよ。でもインターネットの元々は研究者たちのものであって、彼らが色々と新しいことを試しながら、やっとここまで来たんです。いわゆる商用ネットではなく研究者たちが活用できるネットワークを作ってます。
一言でいうとネットワークを使い果たすってことですね。これは研究者専用の回線で、普通の一般人が使うネットワークとは切り離されたものになってます。問題解決をするために好き勝手できる実験ネットワークを構築しているんです。大阪の北ヤードでも、プロモーションをさせてもらってます。
この間行きました。本当に素晴らしかったです。修復は何年もかけてやられますね。絵画の画像データ自体は、ずっと細かく光を当てて1ヶ月くらいかけて撮り終えます。実はそこは映画「冷静と情熱の間」の舞台にもなった、割りと有名な修復アトリエだったみたいです。そこに行くと昔の絵画があちらこちらにあって、ビックリしますよ。
NICTは最近、奈良文化財研究所の方々と一緒に高松塚古墳の壁画の分析をやったんですよ。高松塚を解体する前に色々と画像データを取ったものをお借りして、その結果を映像化してまとめました。これは遷都1300年祭に出展用に作ったんです。ナレッジキャピタル トライアルの時はこれをiPhoneで操作したんですが、そういったネットワークと絡めて展示する部分を僕たちが作りました。
ダ・ヴィンチの時代はサイエンスとアートがとても近い距離にありました。互いが非常に密接な関係にあって、アーティストそのものがサイエンティストだった。テクノロジーを駆使しながらアートを作り上げていたんです。今日のメディアアートもそれに近くて、アートと科学が一緒にやっているのが面白いなと思って、NICTではこのような研究でもって北ヤードに出て行こうと思ったんです。これは大阪市のオープンイノベーションビレッジでやる予定ですよ。
今テクノロジー側には、ユーザー指向の開発が非常に求められているんです。研究室で作ってもなかなか上手く世に出て行かないんですね。その辺りのイノベーションの進歩をアートやデザインに求めるのが必要なんです。そういうキッカケになればと思ってます。
去年のナレッジキャピタル トライアルでは、ネットワークで繋いだイベントも行ったんです。イタリアのスタッフから解説してもらって、こちらではHITACHIさんがデジタルスキャンしたダ・ヴィンチの『受胎告知』をバーンと出して見せたんです。こういった技術的なテクノロジーとアートを結びつけようという活動をしていますね。
そうですね、Panasonicさんからお借りしてやったこともあります。専用回線を使えば、ものすごく大量のデータを扱えるし、表示できるんですよ。そうやってネットワークで送りつけて、相互に交換しながらディスカッションをしたりもするんです。例えばオーストラリアと繋いで、ケアンズ周辺を衛星で観測した時のデータを表示して、植生がどうなってるかとかね。他には32面の画面を使って、飛行機で電波を使って見た地表の様子を表示したこともありますよ。
ブロードバンドとしては世界一ですね。特に光の普及率が圧倒的。価格も一番安いし、安定してます。だけど上手く使っているかどうか・・・と言うとね。行政情報がどれほど出ているか、人々の生活の中でそれほど利用されているかと言った利活用の面ではあんまりですね。病院のカルテがネット上で見られるかと言えば、そうじゃない。技術的にはすぐ出来る状態なのに制度が整っていないんですよ。
とにかく利活用をすすめなくてはいけませんね。もっと医療関係でも使えばいいのに、制度が追いついてなくて、とてももったいない。
研究として新しいもの、面白いものを生み出すけど、実際に使えるものになるかどうかを研究者は見ていないんです。それを実証実験のプロジェクトの中で、色んな人が利用者目線で考える必要があります。技術者が面白いと思うだけではダメですね。上記の高松塚でも、iPhoneでの操作を実際にしてみると、結構使い辛いんですよ。研究者の人たちは面白いと思って作るけど、それだけじゃ不十分なんです。良いアイデアがあっても、世の中に出て行くものがあまりにも少ないのには、そういったことも関係してると思います。
どうやって使われるか、どんな要素が必要か、改良点は何かとか、技術者が最後までやってみる必要があるんじゃないかな。それを体験できる場を北ヤードに作りたいんですよね。これは今後、技術者にとって絶対必要になってきますよ。
ある種の例になればと。NICTでは五感をよくコンセプトとして使うんです。例えば映像だけじゃなく、そこに匂いとかがあれば、デジタルとリアルの間により豊かな関係が作れると思うんですよ。テクノロジー的にはどんどん出来る方向にあるから、それをどういった形でやるのかってのが問題ですが。そういったことを北ヤードでまずやってみる。そしたら、それを見た研究者がまた色々と勉強すれば良いと思うんです。そうやって、作る人間が自分たちで最後までまとめて、世界に打ち出していくことが必要なんです。
北ヤードはどこからでもアクセスできるし、文化的にも色んなものが存在しています。あと大阪人の気質もあって、新しい事がやりやすいので、ぴったりだと思います。それにこんな大きな案件にはなかなか出会えないので、大いに遊ばないと!
まさかイタリア絵画修復に、日本で作られた技術が使われているなんて、本当にビックリしました!と、同時に格好良いなぁとも思っちゃいました。ダ・ヴィンチが生きたのが500年も前の時代、今がその時代と似ているっていうのも、不思議な感じです。
また、サイエンスとアートの融合には、ヴィジョンを持ったプロデューサーによる企画推進力も必要とのこと。これから北ヤードに色んな専門家が集まり、何か新しいことが起こりそうでワクワクします!
取材@大阪大学サイバーメディアセンター
【Email】sshinji@nict.go.jp
【HP】http://www.nict.go.jp/