CREATOR
plaplax(近森基・久納鏡子・筧康明)
株式会社plaplaxのメンバー
mur mur sky
2007年
写真:太田拓実
写真提供:NTTインターコミュニケーション・センター(ICC)
遠く離れた誰かに自分の声を届ける時、今は電話やインターネットを使うことで、場所や時間の制約を超えて、確実に届けることが可能になった。しかし、時に特定の誰かではなく、偶然性に期待しつつどこか遠くの誰かに自分の声を届けたいと思うことはないだろうか。
mur mur skyは自分の声を空に浮かぶ雲の形に変えて届ける作品である。
観客の頭上に吊られた楕円形のスクリーンからは、コップのような形のマイクがいくつも下がっている。観客がそのマイクを使い空に向かって話すと、声に応じた雲が頭上に現れ、風の流れる方向へ流れていく。雲は流れた先でまた自分の声に戻る。雲=声の流れる方向は風任せ、自分の声がどこに届くか、誰の声が自分の元に届くかはわからない。雲にのせて、自分の声をどこかへ届ける。まるで知らない誰かに宛てて、手紙の入ったボトルを海に流すように。
hanahana
2007年
“hanahanaは匂いの視覚化を可能にしたscenting device project である。
私達は日頃、様々な匂いに囲まれて生活している。人間は太古の昔より、“匂い”から自分を取り巻く環境の情報を得、危険を察知し、精神をくつろがせてきた。そしてまた“匂い”は視覚的な情報よりも強く、人々の記憶を呼び覚ますトリガーともなってきた。一方で、揺らぎやすく定着しにくいその不安定な性質から、“匂い”を数値化しそれを二次的に利用することはまだまだ未知の分野である。“匂い”は発生源や気流、温度、湿度など様々な要因から刻々と変化する。人間の嗅覚もまた、強い匂いをかぎ続けると麻痺したり、微小な変化やある種の匂いに気づきにくかったり、限定された感覚器官である。
このような匂いというとらえどころのないものを、楽しんだり、他の感覚に変換させたり、分類しようという試みは古くからなされてきた。たとえば時間の変化で香りも変化するように香水が作られたり、調香師が膨大な種類の匂いの違いをヴィジュアルイメージとして記憶したり、音楽の音階のように“香階”という分類が発明されたりしたのである。
hanahanaは “匂い”を視覚化し時間的変化を体験することで、その性質について再認識を図るとともに、感覚の拡張への可能性を追求する。
日本語でhanaは“匂い”の受容器官である“鼻”を意味する単語であると同時に、“匂い”を発する“花”を指す言葉でもある。この二つの言葉を合わせ持つこの作品は、“匂い”の種類と強さ、時間軸での変化を、映像化された形と色、色の濃度によって表現する。
壁に面して白い机がある。机の上には10種類の異なる液体の入った香水瓶、紙でできた葉っぱ、花瓶が置かれている。葉っぱに香水を吹きかけ、花瓶にささった白い茎にさすと、壁に映った茎のシルエットの先に様々な形・色を持つ花が現れる。花の形や色は葉っぱについた香りの強さ、種類によって多様に変化する。観客は刻々と変化する花の色や濃度から、匂いが時間的に変化していく様を体験する。作品は用意された香水だけでなく、観客が持っている“匂い”、例えばつけている香水などでも変化を体験する事ができる。
花瓶のシルエットとともに壁に映し出された匂いの花を見ることによって、観客は匂いという、存在しながらとらえどころのないものを再認識するのである。
今回、匂いのリアルタイムセンシングのために、化学実験や製品評価の分野で定量的測定に用いられている匂いセンサを応用した。このセンサは空気をサンプリングし、匂いの強弱と匂いの種類の識別情報をリアルタイムで測定することが出来る。匂いの強弱は、あるレンジの匂いの強度を1000段階に分けて測定できる。匂いの識別は、その空気に含まれる物質に応じて100種類に分けて測定できる。データは1秒毎にコンピュータに転送され、コンピュータはこのデータをもとに、リアルタイム(400fps)に映像を描画する。
Media ArtやCHI(Computer Human Interaction)の分野で,匂いを入力とする例はほとんどない。この作品は,匂いを用いたインタラクティブシステムの新たなパラダイムを築く可能性がある。本プロジェクトとしては、今後匂いを入力とするシステムのさらなる幅広い展開を考えている。
at <case edo-tokyo>
2003年
at <case edo-tokyo>は、i-trace*システムを用いた、観客参加型の作品です。
床に投影された東京の都市空間に足を踏み入れると、その位置に対応した江戸時代の古地図が浮かび上がります。さらにその地図の上を様々な動物の足跡がついてきます。十二支のうちのどの動物になるかは、踏み入れる方角によって決まります。
複数の動物の足跡が交差すると、踏まれたほうの足跡の主が姿を現し、それぞれの方角へ帰っていきます。
足跡は、空間的に確かにその場所に存在するものですが、そこに誰かが「いた」という時間的過去の存在を示すものでもあります。
「at」という前置詞も、空間におけるある地点を示すだけでなく、時間におけるある一時点をさす場合にも用いられます。
江戸時代以前には、時間と方角は、どちらも十二支を用いて表されていました。
今、こうして現代の航空写真と古地図とを見比べてみると、空間と時間という概念が非常に密接な関係をもって生まれたものだということを再確認することができます。
※ i-traceとは、筧康明が開発したインタラクティブな空間演出システムである。
本システムは、人物追跡、コンピュータグラフィックスおよびプロジェクション技術を応用し、人の歩いた軌跡とその軌跡同士の触れ合いを様々な映像表現でリアルタイムに演出することを可能にした。